書棚からガイドブックを何冊か取り出して御在所岳「一ノ谷新道」のコースガイドがないか探してみた。
残念ながら簡単な記事と一昔前の概説を見つけただけで最近の詳しい記述は見当たらなかった。
一の谷新道は足場の悪い急斜面が多く、現地の案内板などでは「中級者以上」とされていて滑落事故がたびたび発生している登山道である。
人気の裏登山道や中登山道に隠れて登山者は少ないから詳しいルートガイドまでは市販されていないかもしれない。
しかし御在所岳では「おばれ岩」が傾き中登山道の迂回がPRされていて一ノ谷新道を利用する登山者は増えているのではないだろうか。
中には限られた資料とわずかなネット情報だけを参照してはじめて一ノ谷新道に足を踏み入れたり、軽い気持ちで下山路にしてみたという人もいるのではと想像する。
「御在所岳登山と湯の山温泉めぐり」の五回目となる今回は、自戒をこめて自分で登山道のルート図を書き起こすつもりで再び一ノ谷新道を歩いてみた。
自分でルート図を仕上げることができれば現場で確かな観察と足運びができていた証拠だ。
一方でもし登山記録もつけられず、記憶もたどれずルート図に書き起こせないところがあれば能天気に歩いていたか歩行に余裕がなかったかのどちらかであろう。
それはそれできっと新たな気づきや安心安全登山のステップアップにつながるはずだ。
一ノ谷新道に真剣に向き合う「フィールドメモ」
二回目の一ノ谷新道は「割谷駐車場」から歩いた。
登山アプリの記録などを参照すると一ノ谷新道は下山で利用したという人も見かけるが、初見で歩くならやはり登りを先に経験しておいた方が安心である。
一ノ谷新道は登山道下部では地表に木の根がうねる尾根筋が多く「恵比須岩」あたりまでの中間部では岩の多い急斜面が各所に現れ、笹が出始める登山道上部ではハシゴやトラロープが多数設置されたルートになっている。
そこで登山口から山上公園のカモシカ広場までの登山道を下部、中間部(核心部)、上部と三つに分割してそれぞれの要所をフィールドメモとして書き起こしてみようと思う。
また上部の途中からは「大黒岩」への派生ルートが延びているのでこれも含めて確認しておきたい。
一ノ谷新道登山口へのアプローチ

一ノ谷新道登山口へのアプローチ(出典:国土地理院ウェブサイト・地理院タイルを加工して作成)
割谷駐車場から中登山道の登山口前を通過して一の谷山荘まで歩く。(①~③)
中登山道は現在おばれ岩崩壊の危険があるため他の登山道への迂回がPRされている。
中登山道口には登山届のポストも設置されているので未提出の場合はここで提出しておくとよいだろう。(②)

中登山道口
一の谷山荘は中登山道口からスカイラインの車道を進んだすぐ先にある。(③)
自販機やトイレも設置されていてありがたい。
山荘脇の階段が一ノ谷新道の登山口になっている。
足元を点検してさあ出発。

一ノ谷新道登山口
一ノ谷新道下部:標高860m付近まで

一ノ谷新道下部(出典:国土地理院ウェブサイト・地理院タイルを加工して作成)
10分ほど登ると前方に赤い直角矢印が描かれた大岩が目に入る。(⑤)
岩の左右どちらからでも通行できる。

大岩⑤
大岩のすぐ裏手に回り込むと尾根上に松茸の形をした小さな岩がぽつんと現れて目を楽しませてくれる。(⑥)
前回訪れたときには近くの木の枝に小さな名札がぶら下がっていたが、落ちたか取り外されたか見当たらなかった。
真相は判断できかねるが、むやみに札や目印をつけたりネーミングする行為で取り外されたのかもしれない。
ひとまず松茸岩と呼んでおく。

松茸岩
松茸岩からは斜面東側の山腹を少し歩く。
左手が小さなピークになっていてこれを巻き終わると再び尾根に上がってくる。
その先でもう一つ足場のよい小ピークがあって眼前の鞍部から登り斜面となっている。
10分ほどの登りをこなすと滑落注意の看板が結びつけられた傾斜地にでた。(⑦)
ここは下山時に勢い余って駆け下りてくると危なそうだ。
足のはやい健脚者ほど注意が必要だろう。

滑落注意看板⑦
注意看板のすぐ先が松の木が立つ標高774mほどの足場のよい小さなピークになっている。(⑧)

小ピークと松の木
小枝に結びつけられたピンクテープの先からは急登になっていて距離にして130mほど登ると標高830m地点にヒノキが一本立ち、目の前の鞍部からさらに登りがつづいている。(⑨)

標高830m鞍部
登りはじめて間もなく赤矢印⬆が描かれた目印岩を通過して鞍部から90mほど進んだ標高860m付近で足場が平らになり二股杉が立っている地点まで来る。(⑩~⑪)
すぐ先には滑落事故の真新しい看板が付されて注意喚起がなされている。

二股杉と注意看板
およそこの辺りまでが登山道下部の状況でこの先からいよいよ一ノ谷新道の核心部が始まる。
一ノ谷新道中間部:滑落事故が多発する核心部

一ノ谷新道核心部(出典:国土地理院ウェブサイト・地理院タイルを加工して作成)
ここでは前出の二股杉(⑪)から恵比寿岩(⑱)までを一ノ谷新道の中間部としてみる。
見晴台(⑬)をはさむ標高860mから930m付近は急傾斜地になっていて滑落事故がたびたび発生している要注意の区間である。
現場の看板に注意喚起されているようにストックはしまって両手を空けて通行した方がよい。
またストックをザックに外付けしてあちこち引っかかって体が振られることがないように注意したい。
ルート自体は補助ロープ伝いに登れば迷うところではないので緑の補助ロープ(⑫)、トラロープ、さらにもう一本補助ロープと慎重に辿れば見晴台の直下に突き上がる。(⑬)

核心部
見晴台からはロープウエイの白い鉄塔と御在所岳がよく見えるので一息入れていくのによいところだ。(冒頭写真)
見晴台を離れて先へ進むが、まだ足場が悪い登山道がつづく。
木の根を這い上がり、トラロープで規制されている脇の急傾斜地を通り過ぎるがつまづきやスリップには十分な注意が必要だ。

滑落に注意して通行する
傾斜地を通過すると標高約930mで倒木のある尾根に上がり一安心である。(⑭)
下山のときは逆にここから緊張感を高めて下らなければいけない。

930m付近尾根上の倒木
尾根に上がったらピンクテープを丁寧に辿りながら登山道を西進する。
距離にしておよそ170mほど進むと「鷹見岩」の真南あたりで倒木を跨ぎ越す。(⑮)

⑮倒木地点
ルートはこの先で北に進路を変えている。
鷹見岩の南東斜面はわりと開けていて倒木より手前で北上し始めると迷いやすいので注意だ。
ピンクテープをよく確認して歩きたい。
鷹見岩の南西側から急斜面をつめる。
最後は補助ロープ伝いに上へ上がると鷹見岩の直下に出る。(⑯)

鷹見岩
鷹見岩からゆるい尾根をすこし歩きその先からハシゴとロープ場を越えると13段階段の下にでる。(⑰)

十三段階段
ここで右手を見やれば「恵比寿岩」の看板が立っている。(⑱)

恵比寿岩
登りのときは見落としがちだ。
恵比寿岩は小さな岩だが見晴らしがとてもよい。
ロープウエイの白い鉄塔も随分と下に見えてがんばって登ってきたことが分かる。
転落には十分注意して覗いてみよう。

恵比寿岩からのながめ
一ノ谷新道上部:大黒岩とカモシカ広場まで

一ノ谷新道上部(出典:国土地理院ウェブサイト・地理院タイルを加工して作成)
最後に恵比寿岩(⑰)からカモシカ広場(㉑)までを一ノ谷新道の上部区間としてみる。
恵比寿岩を過ぎると登山道にも笹が出始めて山頂が近い印象に変わる。
ロープ場、ハシゴなどがつぎつぎと現れ足場の悪い登りがつづくが、下山時もスリップしやすいところなので油断なく通過したい。
左手にトラロープが張られた傾斜地まできて先へ進むと登山道の真ん中に折れた木株が現れる。(⑱)

大黒岩分岐の木株
登山道は木株の先でY字分岐になっていて「大黒岩」(⑳)への登山道が派生している。
一ノ谷新道を登ってきたときは右へ鋭角に曲がるような形になるので見落としやすいが大黒岩からは抜群の展望が得られるので忘れずに立ち寄ってみたい。
湯の山温泉を見下ろす絶景が広がっている。

大黒岩からのながめ
尚、登山道の途中から山上公園に抜ける直上ルートは現在通行止めになっている。(⑲)

直上ルートは通行止め
前出木株の分岐まで戻って濡れ道を通過して階段を上がれば一ノ谷新道の道標が立つカモシカ広場に到着する。

一ノ谷新道下山口
この記事では筆者自身の目と足で一ノ谷新道を歩き、フィールドメモを書き起こしてみた。
メモはあくまで筆者の個人的なメモである。
参照はしても盲信することなく多くの方々から「ここはこうだ」、「これを見落としている」という声がたくさんあがることを期待したい。
そうやってひとりひとりがアンテナを張って能動的に歩くことで登山の安全は高まり、悲しい事故を減らすことにつながると信じている。
それでは安心安全登山で一ノ谷新道へいってらっしゃい!
| 管理人山行日 | 2025年11月18日 |
| 割谷駐車場発 | 6:50 |
| 割谷駐車場戻り | 12:15 |
一ノ谷新道については【御在所岳と湯の山温泉めぐり②】一ノ谷新道とグリーンホテル「美人の湯」でも紹介しています。
